ヘルスケア事業
社会背景
健康寿命について
平均寿命:厚生労働省「平成25年簡易生命表」
健康寿命:厚生労働省「平成25年簡易生命表」「平成25年人口動態統計」
「平成25年国民生活基礎調査」総務省「平成25年推計人口」より算出
健康寿命とはその言葉の通り、日常的に介護を必要としないで、自立した生活を送れる期間のことです。
日本は世界有数の長寿国ですが、平均寿命と健康寿命の間には、男性は約9年、女性は約12年の差があります。人生の最後まで健康でいきいきとした生活を送れるよう、健康寿命を延伸することが重要です。
要介護の原因について
要支援・要介護状態(自立度の低下や寝たきり)は健康寿命の最大の問題です。
要介護の原因は長らく脳血管疾患、心疾患、糖尿病などいわゆるメタボリックシンドローム関連の疾患が1位でしたが、特定健診や保健指導等の取組みもあり、年々減少しています。一方、近年では関節疾患、骨折・転倒、脊髄損傷など、ロコモティブシンドロームに関連する運動器疾患が増加し、平成28年の調査ではメタボを抜いて第1位になっており、対策が必要な状態であると考えられます。また、認知症についても、高齢化に伴い、その割合が年々増加しています。
ロコモティブシンドロームについて
「ロコモティブシンドローム」とは、筋肉・骨・関節などの運動器の衰えが原因で、歩行や日常生活になんらかの障害をきたしている状態をいいます。
進行すると日常生活に支障をきたし、介護が必要になるリスクが高くなります。また、ロコモ原因疾患有病者は、推定約4700万人*もおり“ 新国民病” ともいわれています。
*: Yoshimuraら Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women:
the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study.(2009)より引用
ロコモ度テストについて
「ロコモ度テスト」は、移動機能*を確認するためのテストです。 2013年にその内容が提唱され、2015年に臨床判断値が発表されました。
「ロコモ度テスト」は、「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25」の3つのテストから成っています。
定期的に「ロコモ度テスト」を行い、移動機能の状態をチェックしましょう。
*:移動機能とは、立つ・歩く・走る・座るなど、日常生活に必要な“身体の移動に関わる機能”のことです。
フレイル/サルコペニアとロコモ
フレイルとは
フレイルとは高齢期に様々な生理的予備能が低下することによって、ストレスへの耐性低下が起こり、健康障害が生じやすい状態を指し、健康と身体機能障害の間の段階として位置づけられています。
フレイルは身体的要素(身体的フレイル)だけでなく、認知機能障害やうつなどの精神・心理的要素(精神・神経的フレイル)、独居、経済的などの社会的要素(社会的フレイル)も含まれ、生活機能全般の低下を包括した概念としています。
サルコペニアとは
サルコペニアは高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下により定義されます。
サルコペニアは1989年にIrwin Rosenbergによって加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下を意味する概念として提唱されました。ギリシャ語で筋肉(sarx)と喪失(penia)を組み合わせたの造語です。2010年にはEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)から、また、2014年にはAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)から定義が発表されています。
サルコペニア診療ガイドライン2017年度版より引用
フレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドロームの診断基準
フレイル診断基準*1 | サルコペニア診断基準*2 | ロコモティブシンドローム臨床判断値*3 |
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①体重減少 ②疲れやすい ③身体活動量の低下 ④歩行速度の低下 ⑤筋力低下体重減少 |
①筋力量の低下:DXA※またはインピーダンス法 によって算出した筋肉量と身長をもとに評価 ②筋力の低下:握力測定 ③身体能力の低下:歩行速度 ※二重エネルギーX線吸収測定法 |
①どちらか一方の片脚で40cmの高さから 立ち上がれない ②2ステップ値が1.3未満 ③ロコモ25の結果が7点以上 ④両脚で20cmの高さから立ち上がれない ⑤2ステップ値が1.1未満 ⑥ロコモ25の結果が16点以上 |
上記の5項目のうち3項目以上に該当で フレイル、1または2項目該当で プレフレイル |
上記の①に加えて、②と③のいずれか、 または、両方を満たすもの |
上記の①、②、③のうち、いずれかひとつでも 当てはまればロコモ度1、 さらに④、⑤、⑥のうちいずれかひとつでも 当てはまればロコモ度2 ロコモは痛みにも着目していることが特徴です。 |
フレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドロームの有病率と共存割合
東京大学吉村教授らの報告*4では、60歳以上の地域在住高齢者を対象に、ロコモ、フレイル、サルコペニアの有病率を調査した結果、ロコモ度1以上に該当した人は89%、フレイルに該当した人は4.5%、サルコペニアに該当した人は8.6%であり、フレイルに該当した人は全てロコモ度1以上に該当し、サルコペニアに該当した人も0.1%を除いて、ロコモ度1以上に該当していることが示されました。
これらの結果は、ロコモを予防することで、サルコペニアやフレイルを防ぎ、クオリティ・オブ・ライフを向上させることができる可能性を示唆しています。
図:ROADスタディ3次調査における、ロコモ度1、サルコペニア、フレイルの共存割合(Yoshimuraら、より引用改変)
*1:Friedら Cardiovascular Health Study Collaborative Research Group: Frailty in older adults : evidence for a phenotype.より引用
*2:サルコペニア診療ガイドライン2017年度版より引用
*3:ロコモチャレンジ!推進協議会:日本整形外科学会ロコモパンフレット2014より引用
*4:Yoshimuraら Prevalence and co‑existence of locomotive syndrome, sarcopenia, and frailty: the third survey of Research on Osteoarthritis/ Osteoporosis Against Disability (ROAD) study.(2019)より引用
メタボとロコモ
メタボとロコモの関連性
日本のメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者数は約960万人、予備軍の人は約980万人、併せると約1,940万人と推定されており、40~74歳の男性2人に1人、女性の5人に1人に該当します*。
メタボリックシンドロームになると、動脈硬化が促進されて心筋梗塞や脳梗塞などの命に関わる病気を発症するリスクが高くなるうえ、肥満によって膝や腰への負荷が大きくなり、ロコモティブシンドロームの原因ともなります。反対に極端なダイエットや低栄養で痩せすぎていても骨粗鬆症やサルコペニア(筋肉減弱症)となり、ロコモティブシンドロームへとつながります。