ストーマを造設するまで:「命をつなぐこと」が最優先
コロナ禍の2020年、徐々にお腹が膨らみ圧迫感を感じるようになりました。最初は「太ったかな?」と思っていましたが、1ヶ月ほどで臨月のようにお腹が張り、病院で子宮体がんステージ3と診断されました。緊急入院後、卵巣がんや腸の癒着も見つかりました。「人工肛門になる可能性が高い」と事前に言われましたが、ストーマを造設することになったとしても生きることが何より大事だと、私も家族も考えていました。
手術後、転移がなかったと聞き、安心しました。入院中から退院後の生活をイメージし、トイレでの便排出方法を考えたり、必要な物品を夫と一緒に準備したりして、前向きに取り組めていたと思います。
退院後の生活:「快適なストーマライフ」のため試行錯誤と情報収集の日々
退院してからは、とにかく「快適なストーマライフ」を目指して、あれこれ調べては試す毎日が始まりました。入院中は、病院から指定されたストーマ装具をそのまま使うだけで、他に選択肢があること自体を知りませんでした。必要かどうかもわからないベルトを買ってしまったこともありました。そこで、何が自分に合っているのかを知りたいと思い、自分で調べることにしました。いろいろなメーカーの装具やアクセサリーを使ってみることで、メーカーごとの製品の特徴を知れるのは楽しかったです。複数の製品を使った経験は、災害時に普段使っていないメーカーの製品が支給されたときにも役立つと思っています。
情報の発信や収集には、SNSも活用しています。100円ショップで見つけた便利グッズや新製品の使用感を投稿したり、他のオストメイトの方の工夫を見て「そんな方法があるんだ!」と驚かされたり。そういう発見の積み重ねが、日々のモチベーションにもなっています。

狭いトイレでも装具交換ができるように折りたためる鏡や袋などを100円ショップで見つけたポーチに入れています。これからも、より快適を目指してアップデートしていく予定です。
また、私は日本オストミー協会(JOA)の千葉県支部に所属していて、「20/40フォーカスグループ」という59歳以下を対象とした交流会にも参加しています。おしゃべり感覚で参加できる気軽さが良いですね。みんなでワイワイ情報交換する中で、「私だけじゃないんだ」と思えることも多くて、ほっとします。
ストーマ外来にも毎月通っています。入院中は婦人科の看護師さんが説明をしてくれていたので、皮膚・排泄ケア認定看護師さんと関わるようになったのは退院してからです。トラブルがなくても、ちょっとした相談をしたり、ただ顔を見て話したりするだけで安心できます。オストメイトの中にはストーマ外来とつながっていない方も多いので、「ストーマのことならまずは外来に行ってみて!」と声を大にして伝えたいです。頼れる専門家がいると思えることも、とても大事だと思います。
現在の活動と思い:デコパウチで日常を楽しむ「人生はギフト」
ストーマについて調べていたある日、SNSで「推し装具選手権」という投稿を見かけて、思わず笑ってしまいました。投稿者の中島小百合さんとは、やりとりを重ねるうちに仲良くなりました。中島さんから無機質なパウチがどうも好きになれないと言われ、「じゃあ、可愛くしちゃえばいいんじゃない?」と私がスタンプを押したのが、デコパウチ活動のきっかけです。
SNSに写真を投稿すると、「かわいい」「元気が出る」と反響がありました。好きな服や下着を選ぶ感覚で、楽しく装具交換をしてストーマと仲良くなってもらえたらうれしいなと思い、コツコツ活動を続けています。

パウチにデコレーションを施すデコパウチ作り。季節に合わせてシールやハンコで彩ります。

医療系の学会でデコパウチを展示しました。
私は、ストーマをまるで相棒のように感じています。ガスの音がしたときはストーマに向かって「あなたは会話に入らなくていいから」と声をかけたり、漏れがあったときは「ちょっと、どういうこと?そういうところだよ」と文句を言ってみたりすると、不思議と気持ちが落ち着いて、愛着が湧いてきます。

手術を受けた日は、私にとって“生まれ変わった日”です。私はこの日を「ストーマバーサリー(STOMAVERSARY)※」と呼んで、去年12月に4回目のお祝いをしました。
※ストーマとアニバーサリー(記念日)を組み合わせた言葉で、海外のオストメイトが使っている表現を、友人の中島さんが教えてくれました。
もちろん、においや漏れ、食事管理など悩みは尽きません。食べるものやタイミング、量を調整するなど、試行錯誤しながら自分のパターンをみつけてきました。
旅行にもよく出かけますが、事前に行程やトイレの位置を把握し、装具交換のタイミングなどをイメージトレーニングしておくことで不安を減らしています。飛行機の利用時は、ヘルプマークを身につけていたおかげで、客室乗務員が声をかけてくれたこともありました。小さな配慮や準備の積み重ねで、安心して外出を楽しめています。
見た目ではわかりづらい障害だからこそ、偏見にさらされることもありますし、オストメイトマークの認知度が低い現状ももどかしく感じます。だからこそ、 デコパウチを通して、オストメイトのことをもっと知ってもらえる機会を広げていけたらと思っています。
私はオストメイトになって人生が大きく変わりました。でも、それは終わりではなく、新しい扉が開いた感覚です。この活動を通じて得た大切な仲間たちは私にとって、かけがえのないギフトです。

デコパウチでつながる友情旅。移動はトイレ近くの座席指定にするなどで快適な旅行にすることを優先します。
「やりたいことはやる。できないことは、どうしたらできるかを考える」、このスタンスが私の原動力です。人生は思い通りにいかないことの連続だけど、だからこそ楽しむ工夫を忘れずにいたい。すべての人が自分らしく、人生というギフトを味わってほしいと心から願っています。
(発行:2025年9月)

