ストーマを造設するまで:手術を13回繰り返しストーマ造設を決意
ある日、会社のトイレで出血がありましたが、最初に受診した病院では異常はないと言われ、その後に行った産婦人科でも原因はわかりませんでした。それから2年後、大量出血があり、初めて膀胱鏡検査を受け、48歳のときに膀胱がんと判明しました。
専門の病院で手術を受け、無事に終わって1ヶ月もすると体調も安定してきていたのですが、再発があり再び手術をすることになりました。術後、頻尿になり頻繁にトイレに行かなければなりませんでしたが、治療をしながら仕事を続け、有給休暇をうまく利用して手術を受けたり、入院をしたりしていました。
4〜5回目の手術のとき、先生や看護師さんが「何度もトイレに行くより楽だよ」とストーマの説明をしてくださり、ストーマ装具も見せてくれました。しかし、そのときは「再発してもまた取ればいい」「ちょっと我慢すれば何とかなる」と思い、現実的には受け入れられませんでした。ただ、その後も再発を繰り返したため、最終的には13回もの手術をしました。徐々に血尿もひどくなり、トイレの回数が増えて夜も眠れない日が続き、医療従事者の方々とも話し合って、ストーマを造設しようと自分で決めました。10年間も気力で頑張っていたので、これ以上我慢しなくていいと思うと、精神的に楽になりました。その頃には仕事も辞めていたので、体調を整えるために早めに入院しましたが、昼夜問わずトイレの回数が増えて最高で1日65回にもなり、カテーテルを入れたら血液が詰まって辛い思いをするなど、早く手術してほしいと願うばかりでした。
しかしストーマ造設後は安眠できるようになり、痛みからも解放されて、生活の質が改善し、肉体的にも精神的にも良くなりました。
ケアができなくなったときに備えて:夫婦で支え合っていざというときの準備を
退院前、看護師さんに装具交換の仕方を教えてもらったときは、夫にも同席してもらい一緒にやり方を覚えてもらいました。夫は術後に管がたくさん入った状態の私も見ていて、少しずつ回復している様子を子どもたちに報告してくれていたので、装具を交換するところを夫に見せても抵抗感はなかったです。
夫は40代のときに脳卒中を起こしたことがあり、「何かあったときはお互い様」と助け合うようにしています。体調を崩したときなど、自分だけでストーマケアができなくなる状況も考えて、ケアに参加してもらっています。冬の寒い日には冷たくないようにと面板を温めてくれたり、準備を手伝ってくれたり、自分では撮影しづらいストーマ周囲の皮膚の様子を写真に撮ってくれています。また、装具やケア用品の管理は煩雑にならないようにして、置き場所については夫にも把握してもらっています。
ストーマ造設後に苦戦したのは、肌が弱いことから皮膚が赤くなったり、菌に感染したりして起こるトラブルが多かったことです。そのためストーマを造設したばかりのときは1〜2週間に1回、途中からは1ヶ月に1回、のちに2〜3ヶ月に1回、ストーマ外来に通って相談していました。皮膚の状態をスマートフォンで撮影し、ストーマ外来で看護師さんに見せるようにしたところ、口頭よりも伝えやすくなりました。
自分の肌に合う装具を見つけるため、国内で手に入る全てのメーカーの装具を試しました。それぞれの違いがわかるように、交換した日、面板の溶け幅と方向、皮膚の状態(赤みやかゆみの有無)などを手帳に記入していました。他にもその日どこに出かけたとか、汗で剥がれたといったメモも書き添えていました。5年ほど試行錯誤をして、ようやく自分に合う装具を見つけることができました。
病気やケガなどでセルフケアができなくなったときだけでなく、災害時に対しても備えています。寝るときは蓄尿バッグだけでなく、2週間分の装具やケア用品を入れたリュックをベッド柵にかけています。また、お世話になる可能性のある近所の薬局や地域の看護師さんなどには、自分がオストメイトであることを伝えています。
夜間は蓄尿バッグと、装具が入った災害用のバッグをベッド柵に並べてかけています。
現在の活動とストーマとの付き合い方:周囲の人たちに支えられながらやりたいことを楽しめるように
退院後しばらくして、インターネットで日本オストミー協会(JOA)のことを知りました。それまで他のオストメイトの人とかかわりがなかったので、病院以外からも情報が得られればと思い、講習会に参加しました。わからないことを聞くと、同じウロストミーの方が一緒にトイレに行ってくれて、その人のストーマケアのやり方を教えてくれました。月1回、女性だけのおしゃべり会にも参加していますが、「電車に乗るのも温泉に入るのも、泊まりがけの旅行も平気よ、何でもできるから」と言われ、心強かったです。みんなも自分と同じという安心感があり、悩みや不安を共有できる貴重な場です。
ストーマがあっても閉じこもったりせず、今までしていたことをやりたいと思い、現在は健康維持のために毎日7000歩を目標に歩いたり、週1回足つぼの教室へ通ったりしています。以前から着ていた洋服をお腹まわりがゆったりしたデザインにリメイクしたり、パウチカバーを手作りしたりと、趣味の手工芸も楽しんでいます。夫や、2人の息子たちの家族とも一緒に旅行をしたり、温泉に入ったりもしています。最近、小学生の孫たちが子どもたちだけで家に泊まりにきたので、一緒にお風呂に入ったときにストーマのことを伝えました。「おばあちゃんは病気でおしっこを溜める部分をとっちゃったから、お腹にこういう袋をつけてるんだよ」と伝えると、彼らなりに理解してくれたようです。
病気になって膀胱を全摘し、オストメイトになっても、家族や医療従事者のみなさん、新たに出会えた仲間の支えがあり、前向きに生活できています。感謝の気持ちと「これからもよろしくね」という思いを伝えたいです。
(発行:2025年3月)