ストーマ造設と山への思い:突然の腹痛、悩む時間もなかったストーマ造設
2024年9月。念願だった登山の時間を増やそうと、早期退職をした5か月後のことです。自由な生活を満喫していた矢先に人生の転機が訪れました。急に襲った猛烈な腹痛で受診したところ、大腸が炎症を起こし腸に穴が開いていると診断されました。以前受けた大腸カメラで憩室があることは知っていましたが、それが悪化したことによるものでした。深夜にストーマ造設を伴う緊急手術が必要になったため、30㎞離れた病院に救急車で搬送されることになり、迷ったり不安に思ったりする時間もないほどのスピードで治療が進みました。「次にどの山に登ろうか」と考えていた日常から一転、生きるための選択を受け入れざるを得ない状況でした。
初めて自分でストーマを見たのは、術後3日間のICU滞在を経て一般病棟に移ってからでした。看護師さんが妻に装具の交換方法を教えている間に、体を起こして対面したストーマは梅干しのようでした。手術で命が助かった安堵のほうが大きく、またもともと〝袋をつける〞という知識があったこともあり、冷静に受け止めている自分がいました。
術後、排泄の方法やトイレの回数は少し変わりましたが、生活が大きく変わることはありませんでした。頭の中では、「ストーマを造っても登山ができなくなるわけではない」「とにかく早く山に登りたい」「そのためにはどうすれば良いのか?」だけを考えていました。私は、肛門を残すハルトマン手術を受けていたので、医師からは、ストーマを閉じるという選択肢も示されました。しかし、一時的ストーマ閉鎖後の合併症のことを含めて医師からの説明を聴き、自分が山に戻るためのベストな選択として永久的ストーマを選択しました。
退院後登山に復帰するまで:ストーマと共に登山を再開
退院してすぐに登山ができるわけではありません。まずは体力を取り戻すため、近所の公園を歩くことから始めました。その後、海辺でのウォーキングの距離を2㎞、3㎞と徐々に伸ばし、次に近くの小さな山を登るようにしました。最初は20分で登れる山から始め、30分、1時間と徐々に時間を伸ばしていきました。私が住む地域はかなりの積雪がある環境なので、冬はかんじきを履いて雪山を5〜6時間歩き、体力づくりに取り組みました。そして手術から1年後の2025年夏、目標にしていた2泊3日のテント泊登山を達成。山で過ごす時間が増えるたび、「自分らしい生活が戻ってきたな」と実感しています。
ストーマ造設後の登山では、「汗で剥がれるのでは?」という心配から、装具の交換セットは常に日数分を携帯しています。ただ、交換が必要になったことは一度もありません。また、重い荷物を背負うことがあるので、傍ストーマヘルニア対策としてストーマベルトを着用しています。それから、野外での排出や装具の交換に備えて軽量の折りたたみ椅子を持参するなど、自分なりに工夫を重ねながら登山を続けています。
荷物の重さを分散するため、ザック(リュックサック)のウエストベルトを使って腰でも支えるのが一般的ですが、高さがストーマと重なるため、締めるとストーマに当たってしまうのが悩みです。どうすればより快適な登山になるかを考えるのが今の課題です。
現在の生活について:山と共に生きる人生をこれからも
オストメイトであることは、私にとって特別なことではありません。食事は術前と同様に3食とり、お酒も楽しむなど、多少の工夫でこれまでと変わらない生活を過ごせています。もともと一人で登山をしてきたことや、何でも一人で解決しようとする性格もあってか、私がオストメイトであることは家族や親戚以外にはほとんど話していません。私自身は、特に悩みを誰かに聞いてほしいということもなく、これまで通りの暮らしを続けています。でも、仲間とつながることで気持ちが和らぐ人もいますし、一人で歩ける人もいる。どちらの生き方も、その人らしさだと思います。
今後の人生をかけたライフワークとして、地域の山の森林ガイドを作って発信していきたいと思っています。雨が多い日本の山は、森でもあります。ですから、私にとって山歩きは、〝森歩き〞でもあります。登山者の多くは森を通過点にしがちですが、森は季節や天候で表情を変えるという面白さを持っています。これまで経験してきた〝森歩き〞の素晴らしさを、一人でも多くの人に伝えていきたいと思っています。現在は30の山をリストアップし、近い山から登りなおして文章化していく作業を進めています。〝山に登ることは、ふるさとのブナ林に帰ること〞。私はこれからも山に登り続けるつもりです。
オストメイトへのメッセージ:打ち込めるものを大切に生きていく
オストメイトになったからといって、何かを諦める必要はないと思っています。大切なのは、好きなことを続けたいと思う気持ちと、そのためにどうすればできるかを考えていくことで、それが前を向く力になります。
私自身、天気が良ければ山に行くというこれまでの生活スタイルを変えずに過ごしてきました。術前と変わらない日常を続けることが、結果的に家族に余計な心配をかけないことにつながっていると感じています。ストーマにいろいろな種類があるように、ストーマとの向き合い方も人それぞれです。仕事でも趣味でも、心から打ち込めるものがあれば、ストーマ中心の生活ではなく、おのずと自分の暮らしの一部として付き合っていけると思います。ご自身の価値観に合わせて自然体でいられる方法を探しながら、ご自分のペースで、自分らしい暮らしを続けていってほしいと思います。



(発行:2026年3月)

